2026年7月13日
妊娠中に、咳でお困りではありませんか?
☑妊娠をしてから、咳き込むようになった
☑風邪をひいた後の咳が長引きやすい
☑夜間〜明け方に咳で目が覚める
☑ゼーゼー・ヒューヒューという音がする(喘鳴)
☑動いたときに息切れがある
これらは、気管支喘息を疑うべきサインです。
妊娠は喘息が悪化しやすい時期のひとつとされています。
もともと喘息がある方はもちろん、これまで喘息を指摘されたことがない方でも、妊娠をきっかけに症状が出てくることがあります。
なぜ妊娠中に咳・喘息は悪化しやすいのか
妊娠中に喘息が悪化しやすい背景には、いくつかの要因が関わっていると考えられています。
①ホルモンの変化:妊娠に伴うホルモンバランスの変化が、気道の状態に影響すること
②横隔膜の挙上:お腹が大きくなることで横隔膜が押し上げられ、肺が圧迫されやすくなること
③逆流性食道炎の合併:妊娠中は胃酸の逆流が起こりやすく、これが咳や喘息症状の悪化につながること
④免疫学的な変化:妊娠に伴う免疫の変化が関与すること
妊娠経過による症状の変化
一般的に、妊娠すると3分の1の人が喘息の症状が悪化し、逆に症状が改善する人も3分の1、変わらない人も3分の1いるとされています。
症状が改善、または横ばいの患者さんであれば大きな問題にはなりませんが、日常診療で特に注意が必要なのは、症状が悪化してしまう3分の1の方です。
さらに、妊娠24週から36週では症状が悪化しやすく、37週から40週では軽くなるという報告もあるとされています。
当院では、喘息のコントロールが悪化傾向である際には、受診中の産婦人科と積極的に連携をとるようにしています。
咳が出るようになると、ご自身がつらいのはもちろんですが、「お腹の赤ちゃんに影響が出るのではないか」と心配される方が多くいらっしゃいます。まずは症状の原因を正しく評価することが、安心につながる第一歩です。
症状
代表的な症状は、咳・痰・息切れ・喘鳴(ぜーぜーする)です。
これらは一般的な気管支喘息の症状と共通しており、妊娠中だからといって特別な症状が出現するわけではないと考えられます。
すでに喘息と診断されている方は、症状の悪化から「いつもの喘息の悪化」と気づきやすいです。
しかし、これまで喘息を指摘されたことがない方は妊娠をきっかけに初めて症状が出ると、「この咳は本当に喘息なのか」と不安になり相談されるケースがあります。
妊娠中の検査について
呼吸器内科では、レントゲンやCT検査を行うことがありますが、妊娠中に喘息が疑われる場合、当院ではこれらの検査は基本的に行いません。
理由は以下の通りです。
・喘息は状態が悪化していなければ、レントゲンに異常が映らないことが多い
・CT検査を行っても、それだけで喘息の診断がつくわけではない。レントゲンよりもさらに被ばくする。
当院で積極的に行っている呼気一酸化窒素濃度(FeNO)検査を中心に評価を進めます。
放射線被ばくを伴わないため、妊婦さんの負担を抑えながら診断を進めることができます。
もちろん、肺炎を疑った時などは放射線検査を行うメリットがデメリットよりも大きい時には行うべきですが、そのようなときには周産期リスクにも対応できる高次医療機関で精査をおこなったほうが良いのではないかというのが当院の考えです。
治療について
治療の基本は、通常の気管支喘息治療と同様です。
喘息治療で最も重要なのは吸入薬であり、妊娠中も吸入薬を中心に治療を行います。
吸入薬は、吸入した成分が血中に入り胎盤を通過したとしても、胎児への影響は少ないとされており、一般に安全に使用できるとされています。
特に吸入ステロイド薬の中でも、ブデソニドは他の薬剤と比べて安全性を示すデータがより豊富に蓄積されている薬剤のひとつです。
病状・病態に応じて、こうした薬剤を選択肢としてご提案することもあります。
内服薬についても、妊娠中に安全に使用できるとされているものが多くありますが、一部は注意したほうがいい薬剤もあるので、安全性に配慮しながら治療を進めます。
妊娠中は喘息の薬を減らすべきか、治療を優先すべきか
「絶対に安全な薬」というものはありませんが、喘息治療薬の中には、胎児への影響が少ないとされているものも多くあります。
最も注意すべきなのは、喘息の治療が不十分なまま発作を起こしてしまうことです。
喘息が悪化すると、ご自身の咳や息苦しさがつらいだけでなく、胎児が低酸素血症の状態になってしまうことが懸念されます。
その結果として、早産・低出生体重児・先天異常の発生率が高くなることが懸念されており、これが最も大きなリスクとされています。
薬を使わずに母体と胎児に負担がかかるよりも、治療によって喘息をコントロールすることのメリットのほうが大きいと考えられています。
そのため、妊娠中はむしろ喘息治療を厳密に行っていくことが重要です。もちろん、コントロールが良好な際は不要な薬剤は中止するなどが望ましいです。
院長からのメッセージ
妊娠中の喘息については、症状そのものだけでなく、お薬を安全に使用できるかどうかについても患者さんにしっかりお話しした上で、薬の開始や調整を行うことを心がけています。
妊娠中に咳が出ると、ご自身がつらいだけでなく、咳で眠れず体力的にもつらい状態が続き、さらに「この咳や息苦しさが赤ちゃんに影響するのではないか」と心配になる方が多いと思います。まずは喘息の治療を行うことで症状を和らげ、赤ちゃんへの影響が出にくいようにしていくことをお話しし、安心していただけるよう努めています。
また、周産期の喘息がコントロール不良であることは、周産期のリスクにつながるとされています。そのため、特に喘息の調子が良くない患者さんについては、産婦人科とも連携をとりながら診療を進めています。
妊娠中の方、妊娠している可能性がある方、授乳中の方など、喘息でお困りの際はお気軽にご相談ください。土曜診療も行っておりますので、平日の受診が難しい方は土曜日の受診もご検討ください。
よくある質問
Q. 妊娠中に喘息の薬を使っても赤ちゃんに影響はありませんか?
A. 吸入薬を中心とした喘息治療薬は、妊娠中も安全に使用できるとされているものが多くあります。
治療をせず発作を起こすことのほうがリスクが高いと考えられています。
Q. 何科を受診すればよいですか?
A. 咳や喘鳴などの呼吸器症状は呼吸器内科でご相談いただけます。
当院では必要に応じて産婦人科とも連携して診療を行います。
Q. 出産後も喘息の治療は続ける必要がありますか?
A. 出産後の喘息管理についても継続的な評価が必要です。
安全性が高いとされているもので治療を行ったり、経過が良ければ薬剤を積極的に調整するなど、個々の状態に応じて診察の上で判断します。
執筆・監修
溝の口駅前内科・呼吸器内科
院長 高野賢治
(日本内科学会認定総合内科専門医・日本呼吸器学会認定呼吸器専門医・日本アレルギー学会認定アレルギー専門医)
【参考文献】
・日本アレルギー学会 喘息予防・管理ガイドライン2024
